秋になり、ヒガンバナ祭りがありました。さつま町の柊野彼岸花祭りでは約20万本が咲く地域のお祭りです。
ヒガンバナは秋になると田んぼの畦道等に咲き乱れる赤い花です。
毎年、秋になると何となく目にしますが、どのような花なのか、調べてまとめてみました。
ヒガンバナとは
ヒガンバナは、ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草で、漢字表記は彼岸花。曼珠沙華(マンジュサゲまたはマンジュシャカと読みサンスクリット語の音写です)、学名はリコリス・ラジアータとも呼ばれます。
全草有毒な多年草の球根性植物で、六枚の花弁が散形花序(主軸が極めて短く、ほとんどなくなっていて、花は同じところから出ているように見える)の形で放射状につきます。
道端等に群生し、日本では9月の中旬頃に赤い花を付けますが、稀に色素形成異常で白みがかった花もあります。
夏の終わりから秋の初めにかけて、高さ30~50センチの枝も葉も節もない花茎が地上に姿を現し、その先端に苞(蕾を包むように葉が変形した部分)に包まれた花序が一つだけ付きます。
苞が破れると、5~7個前後の花が顔を出し、花は短い柄があって横を向いて開きます。全体として全ての花が輪生状に外向きに並び、花弁は長さ40ミリ、幅約5ミリと細長く、大きく反り返ります。
開花終了後は、晩秋に長さ30~50センチの線形の細い葉をロゼット状に出し、葉は深緑の色で艶があります。
葉は、冬の間は姿が見られますが、翌春になると枯れてしまい、秋が近づくまで地表には何も出てきません。
ヒガンバナの変種であるコヒガンバナは他の種との交配により、多様な園芸品種が作出されています。
ヒガンバナは三倍体で、種子で増えることが出来ない代わりに球根で増えます。(コヒガンバナは二倍体で種子を作れる)
日本には北海道から南西諸島まで見られ、自生ではなく、中国大陸から直接ないし間接的にに持ち込まれたと考えられています。
毒性
全草有毒で、鱗茎にアルカロイド(リコリン、ガランタミン、セキサニン、ホモリコリン等)を多く含む有毒植物です。
経口摂取すると吐き気や下痢の症状が出て、ひどい場合は中枢神経が麻痺して死亡する事があります。
日本では水田の畔や墓地に多く見られ、人為的に植えられたと思われます。
水田の畔の場合は鱗茎の毒がネズミ、モグラ、虫等田を荒らす動物、墓地には虫除け及び土葬後、死体が動物によって掘り返されるのを防ぐ、とされています。
モグラは肉食で植物の根は食べないので関係ないとされますが、モグラの餌となるミミズが鱗茎を嫌って土中に住まないので、ヒガンバナの近くにはモグラが来ないとされています。
花が終わった秋から春先にかけては葉だけになるので、その姿がノビルやアサツキに似ている為に誤食してしまったケースもあります。
鱗茎は石蒜(せきさん)と呼ばれる生薬で、利尿や去痰作用がありますが、有毒なため知識のない人が民間療法として利用するのは危険です。
毒成分の一つであるガランタミンはアルツハイマー病の治療薬として利用されています。
名前について
彼岸花の名前は彼岸の頃に開花する事から由来するようです。
法華経などの仏典から由来する曼珠沙華という異名もあり、「天上の花」という意味を持ちます。(ただし、仏教でいう曼珠沙華は「白くやわらかな花」であり、ヒガンバナの外観とは似ても似つかない花です。近縁種のナツズイセンの花の色は白です)
異名の多い花で、死人花(しびとばな)、地獄花(じごくばな)、幽霊花(ゆうれいばな)、蛇花(へびのはな)、剃刀花(かみそりばな)、狐花(きつねばな)、捨子花(すてごばな)、はっかけばばあ、と日本では不吉な花と忌み嫌われる事もありますが、逆に「赤い花」、「天上の花」の意味でめでたい事の兆しとされる事もあります。日本での別名・地方名・方言は千以上知られているようです。
学名の属名リコリスは、ギリシャ神話の女神・海の精であるネレイドの一人の名前からとられ、種小名ラジアータは「放射状」の意味からです。
救荒植物として
有毒植物である事は先に紹介した通りですが、無毒化の処理をすれば食べられるようです。
昔は農産物ではなく年貢の対象外とされ、救荒作物として田畑や畑の草取りのついでに栽培されていたようです。
鱗茎はデンプンに富み、有毒成分であるリコリンは水溶性で、長時間水に曝せば無害化が可能だったようです。
第二次大戦中など、救飢植物として食用にされた事もあるようです。
ただし、もしもメディア等で彼岸花の毒抜きおよび食用の実験を行って無事だったという話を聞いても、それらは専門家による監修、指導の下で行われています。
また、毒抜きが不十分だった場合や、長期間食べ続けて有毒成分が蓄積することによる中毒の危険があります。
何らかの要因で食料が手に入らなくなり、ヒガンバナしかないような状況で役に立つ、かもしれない知識ぐらいに留めておいたほうが無難でしょう。
その他の情報
季語・花言葉
秋の季語で、花言葉は「情熱」、「独立」、「再会」、「あきらめ」、「転生」、「悲しい思い出」、「想うはあなた一人」、「また会う日を楽しみに」です。
迷信
花の形が燃え盛る炎のように見えることから、家に持ち帰ると火事になると言われています。
アレロパシー
アレロパシー効果で他の植物の成長を阻害します。
近縁種
ショウキスイゼン……漢字表記は鍾馗水仙。ヒガンバナに似た別種で、葉の幅が広い点などに違いがあります。この種類は種を作ります。
シロバナマンジュシャゲ……ヒガンバナの色違いのような白い花を咲かせます。花弁があまり反り返らず、やや黄みがかった色になり、葉もやや広いのが特徴です。ショウキスイゼンとヒガンバナの雑種であるという説もあります。
おわりに
稲穂が実り、黄金色になる田んぼと畦や土手に赤い帯のように咲くヒガンバナの花は、秋の景色として絵になります。
山道で誰も住んでいないような原野や山林の中にこの花が咲いていたら、それは昔、その場所に田畑や人里があった痕跡である、といいます。
有毒ながら人々の生活の身近にあった花だと感じさせられました。